村井正誠という芸術家を知っているだろうか。
1905年生まれで文化学院大学部美術科を卒業と同時に渡仏、1937年には自由美術家協会を創設し、母校の文化学院の講師にも就任、抽象絵画の発展に寄与した芸術家である。
その
村井正誠記念美術館が等々力にある。
元々は村井の自宅兼アトリエのある古い木造住宅だったそうであるが、95年に93歳での死後、伊津子未亡人が色々と紆余曲折の後、隈研吾を紹介され設計を依頼、出来上がったのがこの記念館である。
シンプルな鉄骨造の方形、方流れの屋根をもつホントに小さな建物である。
外観には元々の住宅の屋根の野地板がルーバーのように貼られている。
この日は建築家協会の住宅再生部会のメンバーみんなでここを訪れ、見学すると同時に伊津子氏のお話を聞こうというちょっとした見学会だったのだ。
故村井正誠の美術のこと、歴史のこと、設計を依頼するまでの色々なコトなど、興味深いお話しを頂く。
凛としたお姿と話しぶりがステキな伊津子氏。
内部はドンと二層吹きぬけの大きな空間で、最奥の上部にスリットがあり外部の自然光が取り込まれる作り。
その両側の壁に作品が展示されている。
二階に上がる階段の下に小さな入口があり、ココだけ何だか木造の小さな部屋になっている。
なんと、元あった木造の住宅のアトリエ部分を内部の調度などもそのままに残してあるのだという。
ようは、鉄骨造の新しい建物の中に、丸々古い木造の一部屋が入れ子になっている訳だ。
そのアトリエの中が素晴らしい。
ちょっと雑然とした感じなのだが絵筆やパレット、描きかけの絵画などがそのまま残されている。
まるで作家の思考や手の動きまでもがそのまま感じ取れるような空間である。
サルバドール・ダリの彫刻が平然と置かれていたりする。
棚の上にはどこかの民芸品かな?土偶のようなモノなんかが置かれている。
村井氏が好きだったモノや、世界を旅して収集してきたモノだそうだ。
ソファの上にも絵がイッパイ。
天井を見るとわかるのだが、天井板だけは取り外し、新しい躯体の鉄骨梁が見えている。
古い木造部分は大きな曲がり梁なんかがそのまま残されていて、これがまたなんともイイ味を出している。
面白い。
ここからは展示されている作品色々見ていくのと、村井氏の略歴を併記していきます。
1950年に前述の自由美術家協会を仲間とともに脱退して“モダンアート協会”を創立。
絵画だけでなく、スチールやブロンズを使った彫刻もある。
62年に第5回現代日本美術展最優秀賞を受賞。
シンプルだが、力強い画面構成。
73年に神奈川県立近代美術館、79年和歌山県立近代美術館、93年世田谷美術館などで巡回展を開催するなど、精力的な活動を展開。
配色がナンともモダンで良いなあ。
そして95年神奈川県立近代美術館(他巡回展)で回顧展を開催。
階段箪笥の踏み面に作品がチョコチョコと置かれていたりする。
そして95年に93歳で他界されている。
生前使われていたという古い木のテーブルがそのまま展示台に。
伸びやかな色遣い、ナンともかわいい感じのするモチーフと構成がよい。
二階にも小さな展示室がある。
小さな作業テーブルに作品や解説が飾られている。
モダンな絵画。
これとか好きだ。
この青がイイね。
二階から吹きぬけの展示室を見下ろす。
壮観。
道路側の外観には、元の住宅の外壁に貼られていた板を、やはりルーバーのように貼り、元の家を偲ばせるような作りとしたところに、建築家隈研吾の作家への思いや、手触りを一部でも残し継承しよう、伝えようという気持ちが感じ取れる。
隣地との境界に作られた小さな壁も、元の住宅の屋根に使われていたコンクリート瓦を積み上げて作られたモノだ。
味わい深い造作になっている。
ということで、村井正誠記念美術館見学レポでした。
小さいけれど、作家の思いの詰まった、その気持ちを上手く空間に変換された、とても良い記念館でした。
そもそも、このブロンズの人型を「自画像」とする作家だ。
センス有りまくりである。
素晴らしい、というか、なんとカッコイイのだろうか。
ぜひ行ってみてほしい名建築なり。
ただし、完全予約制、会館は毎週金曜と日曜のみ。
詳細はリンク貼ってる記念美術館のサイトを見てね。
村井正誠記念美術館
住 所:158-0091 東京都世田谷区中町1-6-12
TEL:03-3704-9588
交 通:東急大井町線「等々力」駅より徒歩3分。
来館者用駐車場はありません。