今までに何度か書いてきた江古田の文化遺産的中華料理店「長寿軒」。
おやじさんの体調が優れず、昨年11月に惜しまれながら閉店した。
そのおやじさんが5月21日に永眠された。
本日24日(もう昨夜だ)、地元斎場にて通夜が営まれそれに参列させて頂き、帰ってきたところでコレを書いています。
ここにおやじさんの数々の名料理を永久に記録しておくべく、手持ちの料理写真の全てを公開し、追悼の意を表したいと思う。
その外観は至ってシンプルで、スローフードを掲げた表示がちょっとある程度である。
俺が始めて行った頃(もう30年以上前の話だ)は、奥に長いカウンターのオープンキッチンで、どの席からもおやじさんが鍋をガンガン煽るところがよく見え、子供心に胸ときめかせた記憶がある。
現在の店は手前に客席、パントリーカウンターを挟んで奥に厨房というスタイルになり、のぞき込まないと親父さんが見えない形になってしまったけれど、それはそれで飯食って落ち着いているには良い配置だったのかもしれない。
さて、ここからが長寿軒の名料理の数々を堪能して頂くと共に、永遠に記録&記憶するためのアーカイブとしたい。
残念なのは、全ての料理の写真を撮っていない、と言うことだ。
特に麺類をあまり頼まなかったせいで、麺類の写真がないのが無念であるが、エビ蕎麦も冷菜麺(いわゆる冷やし中華だが野菜たっぷり)等も素晴らしいものだったことを先に記しておく。
まずはチンジャオロース飯。
細切りピーマンとタケノコと牛肉の細切り炒めであるチンジャオロースは、この店では定食ではなくてご飯に乗っけて供されるのがスタンダード。
全てが完璧に同じ細さと長さに切りそろえられており、それが食感を滅茶苦茶良いものにし、味の馴染みも素晴らしいものになるのだ。
おやじさんの腕のなせる技である。
これら定食には、小さなスープが付いているのだが、コレがまた滋味深く味わい深いコクと旨味のあるスープだったなあ・・・。
続いては回鍋肉定食。
シンプルなキャベツと豚肉の甘辛味噌炒めなのだが、この甘辛味噌である甜麺醤のナンとも深いコクがあり、どっしりした味噌味でコレがキャベツの野菜の甘みと肉の旨味を限りなく上手に引き出してある逸品であった。
携帯で撮った写真しかないのが無念。
エビチリはいわゆるケチャップ系。
しかしコレもエビのプリプリ感が素晴らしく、ケチャップだけに留まらない深い味わいのスープがベースにあるようで、ネギや生姜などの薬味の香りも利いていて素晴らしく美味い。
ご飯に合うことこの上ない。
この酢豚もまたゴロゴロと彩りのよい野菜がたっぷりなのだが、こんな塊の野菜がナンとも柔らかく仕上げてあり、とろみのある甘みと酸味のバランスが最高のタレに絡み、最高なのである。
もちろん豚肉も衣を付けて揚げたものがたっぷり入っており、コレまたこの甘酢あんが揚げたことで旨味と肉汁が閉じこめられた豚肉と合わさり、至高の味に昇華しているのだ。
皮から作る餃子も絶品の一品だった。
皮はモチモチ、焦げ目がカリッと、かぶりつけば中から白菜の甘みと豚肉の旨味がドバッと溢れるジューシーな焼き餃子。
ああ、コレ二人前にご飯とスープというのはある意味最強の組み合わせであったなあ。
タマに食べると美味かったのがカタ焼きそば。
カリッとパリッと揚げた麺に、とろみのある野菜たっぷり醤油ベースのあんがかけられている。
このあんをパリパリの麺を端から崩しながら絡めて食うと、パリパリトロトロシャキシャキと色々な食感と共に素材の美味さが際だって美味かったなあ。
炒飯もタマに食ったなあ。
コレはカニ炒飯で、醤油味ベースの炒飯にたっぷりカニがトッピングされている。
カニの旨味と、パラパラに焼き上げられた米と、チャーシューやネギ、タマゴなどが渾然一体となって口の中で凝縮した旨味としてドカンと弾ける。
この炒飯と餃子の組み合わせも良かったなあ。
長寿軒の看板メニューと言っても過言ではないものが二つある。
その一つがニラレバ炒め。
八角の香り高く、濃厚な深い味わいは、ベースとなるスープがよいからこそのもの。
この八角の香りがホントにこのニラレバの要で、それがレバの旨味と合わさるとホントに天上界の味に変化するのだった。
もちろんレバ自体がもの凄く良いものなので、臭みなんかこれっぽっちもないのだ。
ニラのシャキシャキ感も炒め方が絶妙なために最高の状態なのだ。
ニラとレバしか入っていない、ホントのニラレバ炒めだったね。
そして、俺が最も愛し、子供の頃からずーーーーーーっと食べ続けてきた、この世で一番美味いと言っても過言ではない食い物が、長寿軒の麻婆豆腐である。
山椒がピリリと利き、唐辛子の辛さもあるけど辛すぎず、濃厚な旨味が炸裂する挽肉のあんに、キレの良い旨味のある絹ごし豆腐が合わさって、それはもう、何度食べても、いや、毎日食べても飽きのこない、極上の逸品だったのがこの麻婆豆腐だ。
ハッキリ言って、コレのために、コレを食うために長寿軒に通っていたと言っても過言ではないほどコレばっかり食ってた。
これ以上の麻婆豆腐には未だかつてお目にかかった事はなく、今後もおそらくコレを超えるものは現れないかもしれない。
本当の本当に思い出の味なのである。
コレがもう、ホントに二度と食えないのかと思うと、本当に悲しい。
デザートの杏仁豆腐もちゃんと手作りで、杏仁の香りがちゃんとする本物だった。
これもまた、優しい味のシロップと共に語るべき美味さのサッパリデザートだったなあ。
おやじさんに最後にお会いしたのは11月末の閉店後、12月の頭(写真を撮った記録では12月4日)になってからだったかな。
お店に顔を出すと、客席で新聞を読んでいたおやじさんが笑顔で中に入れてくれ、色々と昔のカウンター席だった頃の話から、一応いた弟子の話(のれん分けして椎名町と京橋に店があるそうだ。しかし、親父さん曰く「俺の味を教えてるんだけど、独立してしばらくしたら自分の味になっちゃうから俺の味はもうどこにもないんだよね」と悲しげに笑った顔が印象深い。)、町会役員として地元商店街のために色々と骨を折った話、ご自身の身体の話など、ホントにタダの客でしかない俺と色々腹を割った話をしてくれたことは俺の一生の宝である。
写真で見ると確かにちょっとやつれたというか、疲れた感じに見えるね・・・。
でも、精一杯笑って「手術して、元気になって帰ってくるから、店はもう出来ないかもしれないけど遊びに来てくれよ。」と言って握手してくれたその手は柔らかく暖かだった。
そのまま俺も忙しかったり、なんだったりで顔を出せぬまま、親父さんは逝ってしまった。
せめてもう一度、話が聞ければ良かったと後悔しても、もうそれは出来ないのだ。
無念である。
最後にお会いした時に「コレ持って行ってよ」といって頂いた紹興酒。
もう一生手が付けられないです。
大事に思い出として取っておこうと思います。
いままで美味いものを沢山食わせてくれて、本当にありがとうございました。
おやじさんは人間国宝、長寿軒は世界遺産です。
偉大な料理人でした。
おやじさんのご冥福を祈ります。
安らかにお休み下さい。
合掌。